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横浜地方裁判所 平成6年(わ)2405号 判決

本店所在地 横浜市西区高島二丁目一二番一二号

法人の名称

アップル株式会社

代表者の住所

東京都大田区鵜の木二丁目三五番一号 南多摩川ハイツ四〇二号

代表者の氏名

髙澤和隆

本籍 東京都港区北青山三丁目四七番地

住居

東京都大田区鵜の木二丁目三五番一号 南多摩川ハイツ四〇二号

会社役員

髙澤和隆

昭和一八年七月二〇日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官小池充夫出席の上審理をし、次のとおり判決する。

主文

一  被告人アップル株式会社を罰金一五〇〇万円に処する。

一  被告人髙澤和隆を懲役一年に処する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人アップル株式会社(以下「被告会社」という)は、肩書所在地に本店を置き、アニメグッス等のキャラクター商品の販売等を目的とする会社であり、被告人髙澤和隆は、被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括するものであるが、被告人髙澤和隆において、被告会社の法人税を免れようと企て、被告会社の業務に関し、売上の一部を除外し或いは代表者個人名義のゴルフ会員権を購入する等の方法により所得を秘匿した上

第一  平成二年一〇月一日から平成三年九月三〇日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額は一億三四七万四六一四円であり、これに対する法人税額は三七九三万五一〇〇円であったにもかかわらず、平成三年一一月二六日、横浜市中区山下町三七番地九所在の横浜中税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の所得金額が四六二万四二六一円で、これに対する法人税額は一一八万七一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の同事業年度における正規の法人税額との差額である三六七四万八〇〇〇円の法人税を免れた

第二  平成三年一〇月一日から平成四年九月三〇日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額は五五九九万一六三四円であり、これに対する法人税額は二〇一八万六九〇〇円であったにもかかわらず、平成四年一一月一八日、前記横浜中税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の所得金額が四一一万四二円で、これに対する法人税額は一一〇万一一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の同事業年度における正規の法人税額との差額である一九〇八万五八〇〇円の法人税を免れた

第三  平成四年一〇月一日から平成五年九月三〇日までの事業年度において、被告会社の実際所得金額は七〇八〇万六六四九円であり、これに対する法人税額は二五七六万三一〇〇円であったにもかかわらず、平成五年一一月二四日、前記横浜中税務署において、同税務署長に対し、同事業年度の所得金額が一八九二万三六三二円で、これに対する法人税額は六三〇万七〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、被告会社の同事業年度における正規の法人税額との差額である一九四五万六一〇〇円の法人税を免れた

ものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する平成六年一一月一九日付け及び同月二六日付け各供述調書

一  茨田和枝及び望月満夫の検察官に対する各供述調書

一  大蔵事務官作成の「脱税額計算書説明資料(損益)」と題する書面

一  検察事務官作成の平成六年一二月一二日付け電話聴取書

判示冒頭の事実について

一  横浜地方法務局登記官作成の登記簿の謄本(検察官証拠請求番号乙1号のもの)一通

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の「脱税額計算書」と題する書面(検察官証拠請求番号甲2号のもの)一通

一  大蔵事務官作成の「法人税額計算書(自平成二年一〇月一日至平成三年九月三〇日)」と題する書面

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の「脱税額計算書」と題する書面(検察官証拠請求番号甲3号のもの)一通

一  大蔵事務官作成の「法人税額計算書(自平成三年一〇月一日至平成四年九月三〇日)」と題する書面

一  検察官作成の捜査報告書

判示第三の事実について

一  大蔵事務官作成の「脱税額計算書」と題する書面(検察官証拠請求番号甲4号のもの)一通

一  大蔵事務官作成の「法人税額計算書(自平成四年一〇月一日至平成五年九月三〇日)」と題する書面

(法令の適用)

被告人らの判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当し、更に被告会社については同法一六四条一項(一五九条)を適用し、被告人については、所定刑中懲役刑を選択し、以上は、刑法四五条前段の併合罪なので、被告会社については同法四八条二項を適用し、被告人には同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の所為の罪の刑に法定の加重をし、その所定金額及び刑期の範囲内で、被告会社を罰金一五〇〇万円に、被告人を懲役一年にそれぞれ処し、情状により同法二五条一項を適用して被告人に対しこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、テレビアニメ等のキャラクター商品の販売及び通信販売を営んでいる被告会社の代表取締役である被告人が、被告会社の業績が悪化したときの資金とするために、その業績が良いうちに裏金を作っておこうと企て、通信販売に係る売上のうち、現金書留による決済代金の一部及び海外売上の決済代金として受領した外国小切手の一部並びに卸販売に係る売上の一部を除外し、簿外の普通預貯金口座に入金したり、被告会社所有のゴルフ会員権を仮装売買し、架空の売却損を計上して、事業年度三期にわたって、内容虚偽過少の所得額、法人税額を記載した確定申告書を税務署長に提出して、法人税を免れた事案である。

被告人が本件各犯行に及んだ動機は、将来、被告会社の業績が悪化した時の備えとして裏金を作出しようとしたものであり、いかに被告会社の営むキャラクター商品の販売業界の景気の波が激しいといっても、かかる業界への参入は被告人ら自らの選択によるものである以上、右危険は、被告人ら自身が正当な方法で負担すべきものであるのみならず、法人税法が、納税義務者の自主性を尊重し、いわゆる申告納税制度を採用して、適正公平な課税の実現のために、申告者に高度な倫理性を要求していることに鑑みると、被告人の動機は、自己中心的で身勝手なものといわざるを得ず、その点で酌量の余地はない。

また、本件逋脱税額は、三期合計で七五二八万九九〇〇円と小額とは到底言えず、これを逋脱率でみると、平成三年で約九六・八七パーセント、平成四年で約九四・五五パーセント、平成五年で約七五・五五パーセントといずれも高率であり、この点でも悪質である。

さらに、本件法人税逋脱犯は、税負担の公平を害し、誠実な納税者の犠牲の上に、自己の利得を図る反公共的犯罪であるのみならず、国庫収入の確保を阻害し、国の諸施策の遂行を困難ならしめる犯罪であり、脱税事犯者の刑事責任は厳しく追求される必要がある。

これらを総合すると被告人らの犯情は良くない。

しかしながら他方、本件犯行の殆どが、単純な売上の一部除外による過少申告で、被告人において何らの証拠湮滅工作もなされていないこと、被告人は、捜査機関に対して本件犯行を素直に認め、全てを正直に供述しており、当公判廷においても、反省の旨を述べ、二度と脱税をしないと固く誓っており、その改悛の情が顕著であること、被告会社は、告発対象期について修正申告を済ませた上、本税、延滞税全額の納付を済ませていること、被告人らは、本件発覚後、本件の手段たる売上除外の対象となっていた現金書留による通信販売について、商品発送簿と売上帳を兼ねた帳簿を作成し、再犯防止に向けた経理体制の改善を図っていること、被告人には、前科前歴がないこと及び被告会社の対外取引が被告人個人の信頼によるところが大きく、被告会社の経営を維持し、その従業員の生活の安定を図るためには、被告人の経営者としての手腕が必要不可欠であること等、被告人らにとって、有利な事情や配慮すべき事情も認められる。

そこで本件にあらわれたこれら被告人らにとって有利、不利な一切の事情を総合考慮して、被告人アップル株式会社を罰金一五〇〇万円に処し、被告人髙澤和隆を懲役一年に処し、被告人髙澤和隆について、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予するのが相当である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 小田健司)

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